日曜日、相方の運転する車で祖父を拾い、祖母が入所している施設を訪れた。比較的新しいその大きな施設は清潔で暖かく、すれ違うヘルパーさんたちもにこやかで優しそうだった。わたしたちを案内するため、天窓から光が差し込む明るい廊下をずんずん進んで行くじいちゃんの後を着いて歩きながら、少し不安だった。ばあちゃんはもしかしたら、孫であるわたしやわたしの妹の顔を見ても誰だかわからないかもしれない。覚悟はしていたけど少し緊張してしまう。そしていよいよ対面。ばあちゃんは車椅子に座っていた。その結果は・・・ばあちゃんの痴呆は予想をはるかに超えるもので、少し離れたところから顔を覗き込んだだけで怖がってしまい、意味の無い言葉を口にして怒りを表しているようだった。じいちゃんはその様子を見て、諦めたようにぶつくさ言っていたけど、それに反応してばあちゃんはますます怒り、「お4うt4おいjふぉいうd〜!ばかあ〜!」と、最後にバカをつけて意味不明な言葉を連発していた。
ばあちゃんの話す言葉の意味はほとんど解らなかったけど、決して否定せずに、「そうだよね〜バカだよね〜いやになっちゃうよね〜。」と車椅子の横にしゃがんで相槌をうち続けていたら、ばあちゃんの顔からだんだん険しさが消えていき、やがて穏やかで無心な表情になった。そしてわたしの方に顔を向け、同意を求めるように「ねえ〜。」と言ったので、「ねえ〜そうだよねえ〜。」というとほっとしたように静かになった。
それを見て、こんな考えがよぎる。もしかしたらばあちゃんの中には正常な世界が広がっているのかもしれない。でも身体がついていかないせいで、自分の考えや気持ちを表現できないだけなのではないだろうか。それは例えば、テレビのスイッチを入れたらクーラーが動き出してしまうようなものなのかも。回路がこんがらかって、プラグが間違ったところに差し込まれているような。
去り際、ばあちゃんの肩に手を置いて、「じゃあ帰るね。また来るから。」と言ってみた。返事は無かったけど、表情は穏やかなままで、目は澄んでいた。きっと内心ではわかっているに違いない。そう思いながら施設を後にした。しばらくしたらまた見舞いに訪れよう。
それにしても、じいちゃんは介護に向いてないとおもった。人には向き不向きがあるからそれも仕方ないし、べつにそれでいいとおもう。だからばあちゃんが施設に入れて本当によかったね。あのまま二人で居たら、お互いにストレスが溜まって良くない状況になっていたかもしれないよ。バカって言われても、「バカでごめんね〜。もうしないからね〜。」って、とりあえす言っておけばいいんじゃないかとおもうんだけど、それが言えない人なんだよね。