いつかまた長い物語を

ささいなきっかけだった。J.R.R.トールキン指輪物語を読んだのは今からもう15年くらい前。当時指輪物語の文庫本が出たばかりで、書店にいくと平積みでずらーっと並べられていた。でもあんまりにも長い物語だったので読む気にはならなかった。わたしはただ、「うわあ、こんな長い話だれが読むんだろう」と思っただけだった。なにしろ9巻まであるんだから。

しかしそこへ、2人組の女性が通りかかった。そして片方の女性がこう言ったのだ。「あっ、指輪物語だ。これおもしろいんだよ」。なにい。読んだのか、これを読んだのか。お前が読んだならわたしも読む。と、見ず知らずの女性に変なライバル心を燃やしてしまったわたしは、まずは旅の仲間4巻を買ってしまったのだった。そしてそれが運の尽き。読みはじめたらおもしろくてとめられず、1週間くらいかけて(そのうち2日は徹夜して)読破した。壮大な物語を味わいつくしたあの充実感。

そして指輪物語はわたしの本棚で眠りについた。それから5年ほど経った頃だったろうか。あの物語が映画化されたとき、そのCMを見た妹が指輪物語に興味を持ち、長く本棚に鎮座していたあの本を引っぱり出して読破したのだった。妹はわたしに「この本おもしろいね、どうして買ったの?」と訊いた。そこで前述のエピソードを披露したというわけ。「なるほどねえ、じゃあその人がいなかったら買わなかったんだ」と妹は言った。確かにそのとおり。あの人にとっては何気ない一言だったんだろう。友達に話しかけた言葉。その日常会話の断片がわたしたちに指輪物語をもたらした。見ず知らずの彼女はそのひと言で、わたしのお財布からお金を羽ばたかせて本棚のスペースを埋め、中つ国への旅を経験させてくれた。運命の人。

今はなかなか本を読む時間もありませんが、子育てが一段落したらまたなにか長い物語を読んでみたい。そんなことを考えていて指輪物語を思い出した次第です。

話は変わりますが。相方とわたしと妹の三人で映画の指輪物語を観にいった帰りの車中での会話。相方は、「白のサルマンは白じゃなくなったのにどうしてまだ白い服を着てるんだろう」と言った。わたしは即座にこう答えた。「白い服しか持ってないんじゃねえの?今までずっと白だったから」。相方は「ああそうか」とわたしのあてっぽうな仮説に納得しかかっていたが、妹はそれを聞いてげらげら笑っていた。もう引きつりながらのけぞって笑っていた。めっちゃツボだったらしい。

そんな妹はわたしが相方と結婚するよと報告したとき、「義兄さん(ぎにいさん)と書いて兄さんと読む」と言った。第一声がそれか、と思った。妹は変わっている。