飛来するもの

去年の初夏のこと。爽やかに晴れた朝。天気予報で気温を確認して、それに合わせた服装をと思ったけれどもどうしたものかと迷った。気温が微妙。半袖か長袖か、それとも半袖を着て薄手のパーカーなどを持っていくか。しかし、はおり物を持っていって実際に使わなかったとき、なんだか損した気分になる。かさばるしちょっと重くなる。そこで自分の感覚をもって決めようと思った。窓をあけて気温を感じる。これです。

二重窓をあけ、網戸もカラカラと引く。初夏の気持ちのいい空気が流れ込みその体感温度を確かめようとしていたら、わたしの真正面の空中に、なにか小さな黒い点が浮いているのが見えた。距離も不確かな物体。なにあれ。なになんなの?わたしの目がおかしいの?それともものすごく遠くを飛んでいる鳥?飛行機?なにがなんだかわからないでいるうちに、それはこちらに近づいてくるようだ。ほんの1メートルくらいまで近づいてきたときだったのではなかろうか。わたしはその正体に気がついた。カメムシだった。心の内でヒイッ!と叫び、網戸をピシャリとしめた。その直後、そこにカメムシがくっついた。やはり、いかつい形だ。いかり肩のような、肩パッドを入れているようなあの角ばった姿。刺激するとくさいにおいを放つ。やだこわい。網戸ごしに、わたしの鼻先にカメムシ。どこから飛んできたの?窓をあけたタイミングでカメムシが顔面に向かって飛んでくるとかある?それどんな確率?

わたしは直立した姿勢のまま、二重窓の外側のガラス窓をしめた。内側の曇りガラスの窓もしめた。カメムシの姿は見えなくなった。もしかしたら鼻にくっついていたかもしれないと思うと、その感触を想像してしまいあ゛あ゛あ゛となる。こうしてうる今も思い出してあ゛あ゛あ゛となっている。彼方より飛来せし者、そはカメムシなり。虫が苦手なので強烈な思い出です。

刺激を受けるとくさいにおいを放つというところがなければまだ、カメムシはつやつやしてかっこいい形の虫、と捉えられたかもしれない、のだろうか。たまに芸術的な模様のカメムシがいるので怖いけどちょっと見ちゃう。罪なお方だ。

結局、その日の服装はどうしたのか忘れてしまったけど、たぶんあきらめてはおるものを持っていったんじゃないだろうか。他の窓をあけて確認する気になれなかったことだけは覚えている。カメムシが移動してきて鉢合わせしたらいやだなと思ったから。夕方になって見てみるとカメムシはいなくなっていた。そんなに長いことそこに居続けるほどカメムシも粘着じゃないよね。身を隠すこともできない、食料もないような場所にいつまでもいるわけない。でも、確認するときにもしかしたらまだいるかもと思ってしまったわたしはびびりでした。