夕霧ジャーナル

ブランクはありますが2005年から長く続いているブログです。

ラジオより

f:id:ackee:20210716170506j:plain

本日はバレンタインデー。今年は逆チョコがもらえないみたいなのでみずから買ってみました。フェレロのロシェ3コ入り。香ばしいヘーゼルナッツ、サクサクのウエハース、やわらかなチョコレートクリーム。軽やかな食感の贅沢な味わい。はじめて食べたときからずっと好きでした。バレンタインデーはチョコが食べられるいい日だと思います。

で、相変わらずの厳しい寒さですが、雪まつりも終わり、これからは徐々に暖かくなっていくんだと思うと気持も軽くなります。まだ真冬日が続いたりもしますが、来月も末の頃には雪どけの足音が聞こえてくるのかも。暖かな春風に吹かれる日を夢見ながら今は凍てつく風に顔を凍らせておきましょうか。マイナスの風って、ちくちくして痛いんですよね。地吹雪が加わると痛さ倍増。

日記に書こうとしていたのにタイミングを逃してしまい、今度こそと思いながらも時の経過に流されて、忘却の彼方へ消え去る出来事がある。しかし片隅に引っ掛かりとどまる出来事もある。きょうはそういったことをひとつ書いておこうかなと思います。こうして少しずつ片づけていけたらいいんだけど。

去年のこと。舞台は月末の銀行。混み合うATMには長蛇の列。じりじりと、まるで牛歩作戦のように進む人の流れに身を任せ、ぼんやり考え事をしていたらわたしの番が近づいてきた。頭のなかでいろんなことをいじくりまわしていると時間が経つのはけっこう早い。そしていよいよ列の先頭。壁の一面に並ぶATMのうち、次に空いたところに移動するのだ。さあ、どこが空くだろう。目を配りながら待っていると、目の前のATMが空いた。立ち去る男性の背中。ずんずんと踏み出すわたし。しかし、空っぽのはずのATMには黒いセカンドバッグが置かれている。さきほどの男性の忘れものだろう。とっさにそのバッグをひっつかみ、出口へ向かう男性のうしろ姿に「すみません!」と呼びかけた。周囲の人々の視線が一斉に注がれる。さきほどの男性も振り向いた。「あの、これ忘れてますよ」と言ってバッグを差し出すと、驚いて目を見開くその人は、「ああ、すいません」とバッグを受け取り、くるりと回れ右をしてドアへ向かった。安堵したのも束の間、わたしははっとした。さっきのATMは、もう次の人が操作しているかもしれない。こりゃ並びなおしかもしれないと思いながら振り返ると、次に並んでいた人はその場にとどまり待っていてくれていた。「あ、すいません」と言って素早く戻りぴぽぱと操作。終えて自動ドアに向かう間も、ずっと注目を浴びているような気がして伏し目がちになりながら退出した。

家に戻ってから、あの忘れものについて思いを巡らせた。銀行の、ATMの上にあったバッグ。男性は勤め人のようだった。もしかしたら会社のお金を扱っていたのかもしれない。おろしたばかりの大金が入っていたかもしれない。失くしたらえらいことになるだろう。そんなことを考えていたらなんだかどきどきした。

しばらくたち、そんな出来事も忘れかけていた頃のこと。たまたま家事を早く終わらせることができた午前中、一息つこうとお茶を淹れ、ラジオをつけてみるとあの忘れ物のエピソードにそっくりな話が聴こえてきた。ノースウェーブのスマイルマルシェ。ある男性から寄せられた話。銀行のATMを操作し終わり、出ていこうとすると、後ろから「すいません!」と声を掛けられた。振り返ると女性が「忘れ物ですよ」と言ってバッグを渡してくれた。そのバッグには、会社の実印からなにから大切なものが入っていた。失くしたら大変なことになっていた。その時はあまりにも驚きすぎてきちんとお礼が言えなかった。もしまた会えたらちゃんとお礼がしたい。というような話だった。

ん?こ、これはまさか。あの時のあの男性?もしかしてわたしのこと?この日にたまたま聴いたラジオでこの話を耳にすることになるなんて、なんたる偶然。と思ったけど、札幌市内にはいくつもの銀行があり、見当もつかないくらいたくさんのATMがある。忘れ物をする人も、日に何人かいるかもしれない。あの出来事に似たような場面もあるだろう。わたしのことではないかもしれない。でも、もししたらあの男性も、わたしに対して「ありがとうよ」って思ってくれているかもしれないんだ。そう思って嬉しくなった。

その数日後、別の忘れもの話。スーパーマーケットで買い物を終え、袋に品物を詰め込んでいると、隣にいた高齢の男性がレジ袋をひとつ忘れて立ち去った。またしてもあわてて追いかけた。「これ忘れていますよ」と言って袋を差し出すと、「ああすいません」と受け取ってくれた。しかし。先に店を出ようとしていた彼の奥さんらしき女性が駆け寄ってきて、袋の中身をチェック。小さな声で「盗られてないかい」と言いながらわたしをぎろりとにらむ。ええええ。盗んないよ。盗るなら追いかけないで知らん顔するよ。と思ったけど、サッカー台に戻って袋詰めを終わらせ出口に向かった。先程の奥さんはまだ袋の中身をチェックしていた。「あれはあるの?これはなくなっていない?」わたしの方をちらちら見ながら念入りに確かめている。ちょっとショック。でも仕方ないとも思う。高齢者は狙われやすい。もしかしたらオレオレ詐欺に遭ったばかりで疑心暗鬼になっていたのかもしれない。

広がり続けた悪の波がわたしの足元にまで及んだのだ。いいだろう。受けて立ってやる。ここで「疑われるならもう忘れ物届けないもん」って思ったら負けだ。どんなに疑われようとも忘れ物を見つけたらこれからも絶対に届けてやろうじゃないか。それが悪への挑戦だ。わたしは鼻息荒く、そんなことを考えた。

それが去年の話。疑われるのはいやだったけど、もしかしたらあの老夫婦も後でありがとうって思ってくれたかもしれないし、これからも忘れ物を見つけたらできるだけ届けようと思っています。

これでひとつ消化できました。ちょっとすっきり。