小学生の頃、風呂の無しの公営住宅に住んでいたことがあり、その頃ほぼ毎日、銭湯に通っていた。夕飯が終わってしばらくの後、風呂道具を自転車のカゴにのっけて、母と弟2人とわたしとで、子供の足には少し遠く感じられる銭湯へ向かうのだ。春と夏と秋はそうして自転車に乗って通えたけど、でも、なにもかもが雪で埋もれる冬の時期には歩いて銭湯に通った。自転車のスノータイヤが普及していなかった当時、冬はみな歩きだったのだ(冬のはじめには、自転車は荒縄で物置の壁に吊るされた。雪が解けるまでそうして封印されるのだった)。
凍てつく冬の夜、風呂上りで身体は火照っていたけれど、きちんと乾かしきらずに半分濡れたままのわたしの髪はカチンコチンに凍った。毛糸の帽子から出ている部分の髪は束になって固まり、まるでたくさんのつららを頭にぶらさげているようだった。歩くたびに凍った髪の束が擦れ合ってしゃらしゃらと、どこか金属をおもわせるような冷たく軽い音をたてていた。
今は冬の夜。歩いて銭湯から帰って来ると、ふとあの頃が思い出されます。
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あの頃住んでいたところは、富良野市は山部村。冬の最も寒い時期には最低気温が氷点下30度以下になることもあり、そんなふうにあまりにも寒い日には学校はいつもより遅れて始まった。記憶は曖昧なんだけど、確か氷点下25度なら1時間遅れ、氷点下30度なら2時間遅れだったはず。冷え込みが厳しく感じられる朝は、テレビでその日の気温をチェックして、始業時間が遅くなるのかどうかを気にしていたのだけど、まだそのシステムに慣れていなかった頃に、間違えていつもどうりに登校してしまったことがあった。始業時間が遅れることが決まると、連絡網で知らせが入るはずだったところを、その知らせが入る前に学校に行ってしまったのだった。気温は微妙で、たしか氷点下23度とか24度とかだったとおもう。
そんな気温の中で鼻をおもいっきりすすると、吸い込んだ冷気で鼻の中の粘膜が凍ってくっついちゃって、鼻の穴が閉じちゃうの。それで一瞬パニックになりかけるけど、自分自身の体温ですぐに凍った部分が融けて鼻の穴が開通するの。なんだかもうそれがおもしろくておもしろくて、鼻をできるだけおもいっきりすすって、鼻を穴をわざと閉じさせて遊んでいた。すはーっ、ピタッ、パカッ、って。今にしておもうと、怖い遊びだけどね。
学校に着くと、わたしと同じように間違えて早く登校してしまった子が3人くらいたので、すでに火が入っていた教室のダルマストーブの前であたたまりながら、「今日はどうしたんだろうね。みんなまだ来ないね。」とか話していた。そうするとそこへ用務員さんがやってきて、「あらあんたたち、今日は遅く来てよかったんだよ。」と、今日が1時間遅れであることを告げて行った。どよめく子供達。損したあの日の思い出。でもおかげで、あまりにも寒いと鼻の粘膜がくっつということを知ったのでした。